カテゴリ: ジャズと写真

〈2015.2.3.No.92/河野和典〉 
中平穂積の写真教室ポスター

 緊急報告です。

 すでに、FaceBookへは紹介ずみですが、今度の日曜日、以下のようなイベントが開催されます。中身はすでに当ブログのNo.83で紹介させていただいた中平穂積写真集「偉大なジャズ・ミュージシャンの半世紀を記録」の著者による〈写真教室〉です。

 このたび添付のような中平穂積さんの写真教室「ジャズを写して半世紀」を開催いたします。これは毎年、西多摩再発見フォトコンテス「NISHITAMA百景」http://www.nishitama100k.comの関連事業の一つとして開催されるイベントで、今年で13回目を数えます。

 毎回、第一線でご活躍の著名な写真家を招いて行われて来ましたが、今回は、昨年素晴らしいJAZZの記念碑とも言える写真集『JAZZ GIANTS 1961-2013』を上梓された中平さんにご登場願い、約半世紀に渡る「ジャズと写真」にまつわるエピソードの数々をお話しいただこうという趣向です。中平さんは1961年に新宿でジャズ喫茶「DIG」を開店され、’67年には「DUG」を開店、現在も新宿の靖国通りに面したところで「New DUG」を経営されておりますが、お店を経営の傍ら世界中のジャズフェスティバルへ赴いて国際的に活躍中のジャズミュージシャンを約半世紀に渡って撮影され、しかもすごいことには、これら内外の多くのミュージシャンと交流されてきました。今回の写真教室では、液晶プロジェクターで中平穂積写真集の中からピックアップした作品約80~100点の作品とジャズの名曲を流しながらお話いただきたいと考えております。日時と場所は以下の通りです。入場無料です。お時間のある方は、是非、お集まりください! 必聴、必見です。

日時:2015年2月8日(日)、13:30~15:30

場所:羽村市生涯学習センターゆとろぎ 講座室1(青梅線羽村駅から徒歩約10分、問い合わせ:TEL.042-539-7186、メール:info@nishitama100k.com)

共催:西多摩百景写真展実行委員会・羽村市生涯学習センターゆとろぎ

後援:東京市町村自治調査会、羽村市教育委員会、福生市教育委員会、日の出町教育委員会、檜原村教育委員会、奥多摩町教育委員会、あきる野市教育委員会、瑞穂町教育委員会、青梅市教育委員会、羽村市観光協会、日の出町観光協会、檜原村観光協会、一般社団法人奥多摩観光協会、あきる野市観光協会、瑞穂町観光協会、青梅市観光協会、大多摩観光連盟、NPO法人自然環境アカデミー、日本ボーイスカウト東京連盟多摩西地区 

〈2014.7.10.No.83/河野和典〉 

盛大な出版パーティ

 2014年4月5日(土)の夕方、新宿京王プラザホテルにおいて、上記写真集の出版記念パーティが開催された。来場者は301人。ジャズクラブDUGのオーナーであり写真家の中平穂積*の元に参集したのは、ジャズプレイヤーをはじめ、ジャズ評論家の佐藤秀樹、瀬川昌久、同業のジャズ喫茶オーナー菅原正二、寺島靖國、鳴海廣、そしてジャズ好きの写真家として池英文、木村惠一、熊切圭介、沢渡朔、立木義浩、松本徳彦、さらにデザイナーの和田誠や矢吹申彦、そして出版関係者などであった。

 会は音楽プロデューサーの伊藤八十八の司会により進められ、途中からサックスを抱えた渡辺貞夫、坂田明、トランペットの外山嘉雄、TOKU、クラリネットの中村誠一らがジャムセッションを開始、そこへケイコ・リーなどのボーカルも加わって、やんやの喝采を浴びることとなる。乾杯は渡辺貞夫、祝辞はDUGのマークをデザインした和田誠、一関から駆けつけた菅原正二、大学の先輩の木村惠一や熊切圭介など。それはそれは盛大なパーティであった。

P-2_『中平穂積写真集
豪華な中平穂積写真集『Hozumi Nakadaira: JAZZ GIANTS 1961-2013』
(2014年4月5日、造本:町口覚、東京キララ社、定価:13,000円+税)
P-3_パーティでのジャムセッション

出版記念パーティでジャムセッションに登場した
左からクラリネットの中村誠一、アルトサックスの渡辺貞夫、坂田明、トランペットの外山嘉雄
 


◎写真集『Hozumi Nakadaira: JAZZ GIANTS 1961-2013』の魅力

 すでに中平には写真集として、『JAZZ GIANTS THE 60'S モダン・ジャズ・ジャイアンツ』(1981年4月、構成+アートディレクション:矢吹申彦、講談社、定価:2,000円)、『JAZZ GIANTS 1961-2002』(2002年11月、デザイン:屋嘉比盛弘、東京キララ社、定価:4,762円+税)の2冊があり、さらには『DIG DUG物語 中平穂積読本』(2004年9月、髙平哲郎編、東京キララ社、定価:2,800円+税)という書籍もあるが、今回の写真集『Hozumi Nakadaira: JAZZ GIANTS 1961-2013』(2014年4月5日、造本:町口覚、東京キララ社、定価:13,000円+税)は、実に52年という半世紀以上を費やした文字通りの集大成であり、その表したジャズ・ミュージシャンの幅の広さ、取材の世界的スケールから言っても、極めて貴重なモダンジャズの記録である。

 特長的なのは、これまでの2冊が最初に何ページかをカラーで見せていたが、今回はデザイナーの町口覚の意向もあって、全編モノクローム、唯一最後の1ページだけを、タバコを吸うセロニアス・モンクのちょっとブレた横顔をカラーで締めくくるという凝りようだ。それだけではない。本体は布張りのハードカバー、さらに布張りのケースに収まっている。ケースのポートレート印刷には、アート・ブレーキー、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンス、セロニアス・モンクの5バージョンから選ぶことができる。判型はタテ354×ヨコ266mmとこれまでになく大型で迫力がある。

 そして、肝心の中身だが、まず中平のジャズの出発点ともなった1961年に来日したアート・ブレーキーの東京公演にはじまり、ドラマー白木秀雄とのツーショットでアート・ブレーキー、マックス・ローチ、セロニアス・モンクとつづく。この導入部はとても斬新である。その後はマイルス・デイヴィスなどをはじめとするJAZZ GIANTSがつづく。ただ、その名前を列挙すると残りのスペースが埋まってしまうので、ここでは割愛させていただくが、ジャズ好きの人が思い浮かべるそれも内外の名プレーヤーはまず、例外なく採り上げられていると言って良いであろう。

 そもそも中平は、最初にアート・ブレイキーを撮影した後、郷里の大先輩紀伊國屋文左衛門ならぬ田辺茂一創業の紀伊國屋書店近くにジャズ喫茶DIGを、そして67年にDUGをオープンし、その経営の傍ら撮影にいそしむのである。毎年の如く東京はもとより、ニューヨーク、パリ、あるいはニューポート・ジャズ・フェスティバル、ヴィレッジ・ヴァンガードのライヴ、スウェーデンはストックホルムのゴールデン・サークルのライヴなど、ジャズのあるところ何処へでも出かけ、そしてジャズ・ミュージシャンと交流もする。当然、来日する有名無名を問わず多くのミュージシャンが彼の店へ立ち寄るのである。中平作品の幅の広さ、豊かな奥行きは、舞台上の演奏だけではなく、このようなミュージシャンとのコミュニケートまで含んだところから生まれる素晴らしさにある。かつて毎晩DUGに通い詰めていた写真家の荒木経惟に「中平さんの写真は頼まれ仕事じゃないところがいいんだよなぁ」と言わしめ、野口久光をはじめ多くのジャズ評論家が口を揃えて言ったように、「中平はジャズが大好き」であったこと、そしてそれを写真で記録する情熱が並み外れていたことが、これだけスケールの大きいJAZZ GIANTSの表情を捉えることができたのである。 
P-5A_会場入口に飾られた作品
P-5B_会場入口に飾られた作品
P-5C_会場入口に飾られた作品
上3点はパーティ会場入口に展示された「JAZZ GIANTS」の作品群 

◎ジャズと写真

 1960年代後半からジャズを聴くようになった私だが、ジャズの写真というと、まずレコードショップの、そしてジャズ喫茶でリクエストに掲げられるLPレコードのジャケット写真から目にすることとなる。聴いていくと、だいたい名盤と誉れ高いジャケットには写真・デザインともに優れたものが多い。かのリー・フリードランダー撮影の『JOHN COLTRANE GIANT STEPS』やマグナムのメンバーでもあったデニス・ストックの『MILESTONES...MILES DAVIS』、さらには撮影者は不明だがハイヒールの女性が闊歩するその足もとを捉えた『COOL STRUTTIN' / SONNY CLARK』などは今も記憶に残る。もうひとつは、ジャズの情報を得るための月刊誌『スイングジャーナル』などの口絵グラビアにおける演奏会場レポートの写真くらいであろう。私の知る限り、ジャズ・ミュージシャンを集めた写真集というのはほとんど見たことがなかった。

 そんな中、1991年2月7日~3月5日、主催・朝日新聞社で大阪のナビオ美術館において「音とイメージ、ジャズの世界・ 写真展 疾走するジャズスピリット」が開催された。中身は1940年代、まだマイルスも若くビリー・ホリデーも活躍していたジャズの黄金期を捉えたウイリアム・ゴットリーブと、その後52年から90年までをフォローしたジャン-ピエール・ルロアの2人展であった。すべてモノクロームプリントであったが、このとき図録も発行されている。奥付には発行:G.I.P.Tokyo、発行人:倉持五郎とある。想像するに、たぶんこの写真展そのものもコーディネートしたのが倉持ではなかったか。展示プリント、図録の印刷も素晴らしいのだが、惜しむらくは図録に展示作品が網羅されてないことである。折角の印刷物なのに記録的価値は半減する。しかし、「ウイリアム・ゴットリーブ」と「ジャン-ピエール・ルロア」油井正一、「ジャズ・フォトグラファーの役割」児山紀芳(スイングジャーナル編集長)、「ボーダーレスアート──ミュージックそしてフォトグラファー──」吉田ルイ子(フォトジャーナリスト)の3名の寄稿文が素晴らしい。特に児山紀芳のテキストには「ある時、ゴットリーブと会って話をしていたら、彼が往時を回想して、『私はカメラでジャズのサウンドを伝えたかった。音が聞こえてくるような写真を、それも単に音だけでなく、音の質感までも表現しようと努力した』」とある。これはまるで、中平の写真──汗びっしょりのセロニアス・モンクや瞑想するが如く首をうなだれてピアノを弾くビル・エバンス、DIGの入口でカメラに対峙するアンソニー・ブラックストン──から受ける印象ではないか。ゴットリーブの写真家としての言葉は素晴らしいが、中平のJAZZ GIANTSの歴史的記録は、この図録に勝とも劣らない。

 そう言えば、もとよりジャズは即興演奏である。写真もまた、シャッターを押すタイミング、フレーミングなど、まさに即興ではないか。少なからず、ジャズも写真もその場の人間が影響し合い、新たなジャズが、そして新たなる写真が生まれるのである。
 

【なかだいら・ほづみ】1936年和歌山県田辺市本宮町生まれ。55年県立新宮高校卒業。60年日本大学芸術学部写真学科卒業。61年1月アート・ブレイキー初来日撮影、ジャズフォトスタート。同年11月新宿にジャズ喫茶DIG開店。65-74年ジャズカレンダー制作。67年新宿紀伊國屋裏にDUG開店。93年新宿コニカプラザで「ジャズの巨人たち」写真展(入場者数27,000人を記録)。2013年平成25年度和歌山県文化功労賞受賞。


*今回もまた前回同様に、日本写真家協会JPS会報156号より私の連載を転載させていただきました。 

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